法的責任について
介護事故が起きた際の、法的責任の所在について説明します。
介護施設側の法的責任
介護施設は利用者の安全確保に努める義務を負っており、これは契約書への記載がなくても必ず守らなければなりません。介護施設側が安全配慮義務に違反したと認められた場合、利用者やその家族は介護施設側に対して損害賠償責任を問えます。安全配慮義務に違反したと判断されるのは、介護事故の発見を予想でき、それを回避できたにもかかわらず、回避措置を取らなかったケースです。例えば、転倒事故について、以前にも同じ利用者が転倒した事案があった場合、再度転倒するリスクがあると考えられます。そのため、何らかの防止策を講じていなければ、安全配慮義務に違反しているといえます。
一方、転倒事故のリスクを考慮し、利用者を安全な場所へ移動させた後、介護職員が別の対応に追われている間に利用者が突発的に行動して転倒した場合、介護施設側としては回避措置を取った上で起こった事故として、安全配慮義務には違反していないと判断される可能性が高いです。
なお、故意や過失の有無にかかわらず、結果に対して責任を負うことを結果責任といいますが、介護事故における損害賠償責任は結果責任ではありません。つまり、介護施設側が本来求められる防止策を講じていた、あるいは予測が困難な事故が発生した場合は、安全配慮義務の違反には該当しないと判断される傾向にあります。
その他の法的責任や道義的責任
介護施設は事業のために介護職員を雇い、その結果利益を得ています。そのため、被用者である介護職員が故意や過失によって介護事故を起こした場合は、その使用者である介護施設側が損害賠償責任を問われます。また、介護事故には法的責任以外に道義的責任が生じます。介護事故が起こった際は利用者の家族に対して即座に報告し、謝罪するといった対応が求められます。
介護職員個人の法的責任
民事上の責任については、民法第709条の不法行為責任を追及できる可能性があります。これは、故意や過失によって他人の権利や利益を侵害した際に負う賠償責任を指します。とはいえ、実際のところ介護職員個人に対して損害賠償が請求されるケースはほとんどありません。
刑事上の責任については、刑法第211条の業務上過失致死傷等が適用される可能性があります。適用が認められた場合は、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処されます。しかし、こちらについても虐待などの悪質な行為がなければ、責任追及が認められる可能性は低いです。仮に、懲役刑や禁固刑に処された場合、資格のはく奪など、行政上の責任を負う可能性があります。
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